ITに疎いではもはや許されない
「オフィスの入退管理において、顔認証セキュリティを導入することになりました。つきましては、証明写真アプリを携帯電話にインストールのうえ、写真を撮影し下記フォームからアップロードしてください」
こんなメールが総務から送られてきました。
なるほど。そういうご時世だよな。セキュリティ大事だもんな。と、頭では理解できるものの、実際のところはものすごく憂鬱な気分になります。
証明写真アプリか。そんなアプリがあるんだ……。ま、インストールはできるにしても、写真の撮り方とか絶対めんどくさいんだろうな。アップロードとかも一回でうまくできたためしがない……。こんな気持ちが脳裏をよぎるんです。
ITはいまや必須のビジネスツールです。それなしでは、企業活動そのものに支障が出るといっても過言ではありません。それでいくと、社会人であれば誰もができて当然であり、業務に必要なスキルだということになります。
だから、ITに疎いではもはや許されない空気感が職場には漂っています。そういう状況がより高じて生まれてきたのがテクノロジーハラスメント、いわゆるテクハラです。IT関連に疎く、PCやスマートフォンなどの扱いが苦手な人へのいじめや嫌がらせのことです。
下剋上ハラスメントの時代
今では、なんでもハラスメントになってしまう時代ですが、パワハラにしてもセクハラにしても職場系ハラスメントのほとんどは、上から下へのベクトルです。しかし、このテクハラに限っては、下から上のハラスメントほとんど。デジタルツールの使い方を覚えられないオトナに、若手がイラっとしてハラスメントを引き起こす。今や、ITを巡って、下からハラスメントを受ける時代になったのです。
テクハラは当初、IT機器に相当疎い一部の中高年社員が対象でした。それこそ、メール1通送るのに時間をかけているオトナに対して、若者がイラモヤして「チッ」と舌打ちする。仕事がデキるオトナほど、プライドが傷つけられる。こんなシーンが多かったんだと思います。しかし、クラウドサービス利用の増加、コロナ禍での在宅勤務、テレワークの導入など、環境の変化に伴いIT環境はあっという間に変わっていきました。テクハラの恐怖は、大半の大人世代に忍び寄って来ています。
IT弱者のオトナ世代が逆襲
一方で、最近では、逆テクハラという言葉も話題になっています。逆テクハラとは、IT関連の知識が豊富で得意な社員に、そういった関連の作業を押しつけることを指します。これは、職場では上位の立場にある、かつITへの苦手意識があるオトナ世代が、「ITからは逃げよう、得意な若者にやらせればいいんだ」と開き直ったために起こる事象といえます。
新しいものを習得するためには、誰かに教えを乞うか、自身で身につける必要があります。部下などの若手に勇気を出して聞きにいったとしても、PC設定など、ごく稀にしか発生しない業務は、結局覚えられない。あるいは、教えてもらってもよく分からない。だからといって、自身で身につけようと思っても、基礎知識が足りないし、情報があるのはネット上だったりするので、調べるのが難しい……。こういうことが多発します。
そこでつまずくと、“もういいや!代わりにやってもらおう!”という心理が働き、結果として、ITを若者に押しつけようとするオトナが大発生してしまうんでしょう。いってみれば、IT弱者であるオトナ世代の逆襲です。
この5つはマスターしとこう
ITに詳しい人間が「強者」で、ITに疎い人間が「弱者」。これがテクハラの温床になっていたわけですが、オトナの開き直りは、ITに疎い人間が「強者」でITに詳しい人間が「弱者」という立場の逆転構造を生んでしまったーー。なんともトホホな話です。
とはいえ、かくいう自分も(逆襲などというつもりはなくとも)難しいITのことは若手に頼っちゃおうという気持ちがあるのは否めません。
問題は、どの水準は頼ってよくて、どこまでは自分でできるようになるべきか。ここじゃないかかと思うんです。この水準に乗っかっていれば、テクハラに遭遇することも、逆テクハラを引き起こすこともなくなってくるはず。そのためには、ちょっと頑張って、ある程度のITリテラシーを身に付けることなんだと思います。
ちなみに、最低限のITリテラシーとして定義されるのは、「Excel、パワポを使える」「リモート会議の設定」「書類のPDF化」「メールの設定」「スクリーンショット」だという声が大多数でした。
IT弱者だと自覚しているみなさん。せめてこの5つはマスターしておきましょう。あ、これ、自戒の念も込めて、自分自身にも言ってます。