売り手市場完全復活
あけましておめでとうございます。
新年ということもあるので、2023年の労働市場について、ちょっとばかり目を向けてみましょう。いろいろなトピックがあるけれど、個人的に気になっているのは、この4月に社会人デビューする新社会人のキャリアについてです。
23卒学生の就活を振り返ってみると、「売り手市場の復活」という一言に尽きます。ウィズコロナの大学生活が日常となり、コロナ禍で3回目を迎えた就活戦線。採用意欲を高める企業が増える中、内定率は完全にコロナ前に戻ってきました。リクルートが発表した12月1日時点の就職内定率は94.0%に達していますし、学生一人あたり内定社数も増え、逆に企業の採用充足率は低下しています。
ゆるい職場へようこそ
就活シーンにおいて売り手市場化が進み、“選べる”状況の中で会社を決めることができる。そんな恵まれた世代が入社した後に待ちうけているのが、昨今話題になっている「ゆるい職場」です。
ゆるい職場とは、若手社員が「一度も叱られたことがない」「学生時代と同じ感じで肩透かし」「仕事の負荷がなさすぎて成長できる感じがしない」などと感じる職場。昨年、同タイトルの書籍が出版され、ここ直近でもちらほらとニュースに取り上げられています。
何故、こうした現象が起きているのか。
ゆるい職場が発生する素になっているのは、2つの法改正です。
まずは2019年の「働き方改革法案」。行き過ぎた過重労働に歯止めをかけるべく、厳しい残業規制が課せられるようになりました。これによって職場における「仕事負荷」は大きく減りました。
もうひとつが2020年の「パワハラ防止法」。2022年には中小企業にも適用されるようになり、理不尽な扱いや目に余る上下関係といった「関係性負荷」にも十二分な配慮が必要となりました。
ゆるいと不安になる心理
そもそもブラックな仕事環境とは、“物理的な”仕事負荷と“精神的な”関係性負荷という2つの負荷で構成されています。そういった観点からすると、この法改正は、職場のホワイト化を進めるのに極めてクリティカルな打ち手だったといえます。めちゃめちゃ健全化された仕事環境が増えてきているのです。
売り手市場で選択肢も多い。急速に進むホワイト職場の中で働ける。繰り返しになりますが、考えれば考えるほど、23年卒は恵まれた世代だといえるでしょう。
それなのに、手放しでハッピーとならないのが難しいところです。
実は、職場のホワイト化が進んでいるにもかかわらず、若手社員の離職は減っていません。減るどころか増加傾向にあります。え?そんなに働きやすくなってるのに?と思いませんか。
つまりは、辞める理由が変わったということです。
かつての離職は、長時間労働、理不尽な上司のパワハラに対する「不満」がその原因でした。確かに、こうした離職は減ったのかもしれません。代わりに増えたのが、若手の「不安」です。
成長するのは自己責任?
関係性負荷の軽減=パワハラの減少は望むところなのですが、仕事の負荷が小さくなりすぎると、それはそれで仕事に醍醐味を感じません。なにより仕事を通じて自分の成長を実感できなくなってしまいます。成長。この言葉に今の若者は異常ほど敏感です。
一生、会社に面倒みてもらえないんだったら、どこに行っても通用するように自分で市場価値を高めていくしかない。大手の肩書きだけで仕事をしていると転職できなくなってしまう。
あまりに恵まれた環境だと成長できない。そんな「不安」が、今の若者の脳内には渦巻いています。
終身雇用が崩壊しはじめていることをいちばん身に沁みて感じているのは、他ならぬ若者世代なんです。だからこそ、彼らは、自分自身で成長していかねばならないことを強く自覚しています。
その昔、とらばーゆの編集長を務めている時、コンセプトリニューアルで「成長する自由」というキャッチコピーを作りました。働く女性の社会進出や地位向上を支援する時代を象徴するコピー(いや、我ながら名コピーだと思いますよ)。
今の若手、特に23年新卒に贈るとしたら、「成長する自由」というより、差し詰め「成長する自己責任」というコピーでしょうか。
採用環境も仕事環境も、一見、すごく恵まれている世代(実際に恵まれている側面もおおいにあるんだけど)。一方で、キャリアに対する「不安」に苛まれ、けっこうしんどい思いをしている世代。
若手の成長――。新人を迎え入れる職場側は、もう間違いなく、一段ギアをあげて、ここにコミットすべきです。