令和版、悠々自適の生活
最近、ビジネスパーソンの間で注目を集める「FIRE」。
読み方は「ファイア」ですが、もちろん「火」という意味ではありません。
「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉で、直訳すると「経済的自立と早期リタイア」となります。
簡単に言うと、若いうちに経済的に自立し、仕事を辞めることです。
アメリカ発祥のムーブメントですが、日本でも目標にする人が急増しています。
早期リタイアして悠々自適の生活をするーー。
こうした生き方への憧れは、言うまでもなく従来からありましたよね。
しかし、これまでの早期リタイアは、一部の億万長者にしか実現できないイメージでした。FIREが注目される理由は、巨万の富を持っていなくても、節約と貯蓄を続ければ「経済的自立」が実現できるという点にあります。
もう少し具体的に説明すると、「働きながら投資元本を蓄財し、運用益で生活できる目途が立った段階でリタイアする」という生き方がFIREなのです。
年間支出25倍の資産と4%の運用益
こう聞くと、確かに、サラリーマンにとっても実現不可能ではないかもしれません。
だとすると、どのくらい節約してどのくらい貯蓄すればいいのか、俄然、気になりますよね。 FIREでいう「経済的自立」のガイドラインは、「投資元本=年間支出の25倍の資産」と「運用益=4%」とされています。
つまり、年間支出の25倍の資産を投資元本とすれば、元本を減らすことなく運用益で生活できる。その運用益の基準が4%なのです。
具体的な数字で見てみましょう。
総務庁の調査によると、2020年の消費支出平均は月額233,568円という結果が出ています。
これをもとに、仮に月額25万円が必要だとすると、年間の支出は300万円となります。FIREで必要な資産はこの25倍なので、300万円×25=7,500万円となるのです。
一方で、支出額が月25万円(年間300万円)の場合、7,500万円を年利4%で運用すると年300万円の収入となります。リタイア後の資産運用で4%の利回りを確保し、生活費など年間支出を運用資産の4%未満に抑えることで、資産を取り崩すことなく生活できる。これがFIREのロジックです。
オトナと若者のギャップが浮き彫り
FIREの魅力。それはなんといっても自由な生活でしょう。
FIREを実現した後は、好きなことをして暮らせます。働くかどうかも自由です。
労働に縛られず、自分の好きなように時間を使える。お金より時間に重きを置く「今どきの若者」にとっては、理想の生活なんじゃないでしょうか。
「これから先って、どうせ会社も国も頼れないでしょ。貧乏生活をしたくなかったら、若い頃から経済的に自立して、早期退職したほうがいいですよね。しかも自分のやりたいことに時間を使えるわけだから。FIREの目標を立て、努力したほうが、絶対幸せに近づけると思うんですよね」
こう話す若者もいます。
一方で、我々オトナ世代はFIREをどう受け止めるのか。
早期リタイアって、うらやましいけど、そんな夢みたいなこと、簡単に実現できるわけがない。運用するための資産だってけっこう必要だし、お金が貯まったとしても、投資にはリスクがあるし。だいたい年4%の運用益が維持できるとは限らない。そんなに甘くないと思うよ。こんな現実的な考えが頭をよぎる人も多いでしょう。
仮に、運用資産の目途がついたとしましょう。投資に関する知識も持っているとしましょう。その時、我々オトナ世代はFIREするでしょうか。働いて稼ぐことが当たり前だった時代を生き抜いてきたオトナ世代にとって、不労所得で生きていくというのは、まったく未知の世界でもあります。
人生観を見なおす機会
現に、自己資産をつぎ込んでFIREを始めた人のこんな声もあります。
「会社勤めをしていたときは、風光明媚な田舎でのんびり農作業する生活に憧れていました。しかし実際に来てみると、3カ月くらいで飽きました。東京に戻ってアルバイトでもして、社会との繋がりを取り戻そうかと思案中です」
働かなくていいのは、一見うらやましくも思うものの、実際にやってみると退屈な日々なんじゃないか、実はわたしもそう感じる一人です。
それでも、FIREというムーブメントをポジティブに捉えるべきなんじゃないか、とも思うのです。
働くことが当たり前で生きてきた我々オトナの多くは、現実的な思考が沁みついて、夢を語ること自体ナンセンスだと感じてしまいがちです。
これまでは選択肢がなかったけど、それだけでは、なんか人生もったいない気もします。
そういった意味では、FIREという生き方は、我々に「どういう生き方が自分にとって幸せなのか」を問うているようにも思います。
お金があったら働かない。お金があっても働く。みなさんはどっちですか?